1秒の意味処理が失語症の文理解には重要!速度に着目した聴理解教材を紹介

高次脳機能障害に使えるアプリ

機能訓練で短文の理解ができるようになり、
徐々に音声でのやり取りが可能になった
失語症者。


より複雑なコミュニケーションを目指し、
まずはSLTAの口頭命令の成績向上を
目標に考える方も多いかもしれません。


文理解で何のリハビリを行えばいいか、
悩む方も多いのではないでしょうか。
もちろん、私もそのうちの1人でした。


いろいろと調べた結果、私はいま

「1秒で」「連続で」「正確に」を目指した
連続的聴理解訓練を行なっています。


きっかけは2014年の論文


口頭命令で良い成績を取るには
単語を
✅ 一定以上の速度で
✅ 連続で正しく処理する能力
が重要であると知り、訓練を変えました。


この記事では、
論文の内容をギュと絞って紹介します。

聴覚性把持力や構文理解能力よりも、
処理速度が重要視されている部分に
特に力を入れて書いています。


そして、後半では、
私が行っている機能訓練を紹介します。


ここで紹介した訓練を取り入れるなかで、
スムーズなコミュニケーションを実現し、
患者様の笑顔が少しでも増えることを
願っています。

想定読者

✔︎ 口頭命令の改善に悩んでいる

✔︎ 文レベルの聴理解訓練で悩んでいる

✔︎ 処理速度に着目した訓練に興味がある

記事の結論

✔︎ 一定間隔で連続的に提示された単語を
正しく意味に変換する能力が
失語症者は低下している。


✔︎ 連続的単語処理能upが
口頭命令の成績を上げる可能性がある



✔︎ 連続的単語処理能を鍛えるために
提示の時間を徐々に短くせよ

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文理解に必要な能力は、
聴覚性連続的単語処理能である。

聴覚性連続的単語処理能とは

聴覚性連続的単語処理能は、
2014年の論文にて初めて提唱されました。



一定の速度間隔で音声入力される
単語の連続処理語数をもって
聴覚性連続的単語処理能」と呼ぶ

文の聴理解に影響を及ぼす因子
「口頭命令に従う」の分析を通して

この能力は簡単にいうと、

1秒間隔でどんどん提示される単語を
連続で正しく意味に変換する能力



文献によると、SLTAの口頭命令は、
1秒に1単語の処理が必要と考えられているようです。

聴覚性連続的単語処理能が
口頭命令の成績に最も関与している。

聴覚性連続的単語処理能が
口頭命令の成績に最も関与しています。

その3つの根拠を書いていきます。

根拠①
失語症者は聴覚性連続的単語処理能が低下しやすい

健常者に比べて失語症者は
聴覚性連続的単語処理能が低下しやすい
とのこと。


文献では、
健常者と失語症者に、
聴覚性連続的単語処理能を調べる検査を実施
しました。

動画のような検査です⬇️

健常者は30枚/30枚で100%正答。

対して失語症者は、
平均2枚しか正答できません
でした。


つまり、健常者に比べて、

失語症者は
聴覚性連続単語処理能が低下している
可能性がある
ということです。

アプリん
アプリん

失語症者は
「連続で」「速く」
単語を処理するのが
苦手なんだね

根拠②
口頭命令と
聴覚性連続的単語処理能の成績が相関

口頭命令の成績向上には、
聴覚性連続的単語処理能が必要です。


文献では、
口頭命令の正答数

聴覚性連続的単語処理能の正答数
相関
が提示されています。


グラフで提示しますね。

リハくん
リハくん

連続的単語処理の正答数が低いと
口頭命令の正答数が低い。


連続的単語処理の正答数が多いと
口頭命令の正答数が多い。

2つは関係していることが
このグラフから分かるね!

相関係数0.8以上です。
明らかに相関が見られることが分かります。


両者に相関が見られるので、
口頭命令の成績向上には、
聴覚性連続的単語処理能の改善が必要だと
私は考えています。

根拠③
口頭命令の成績差から推測

聴覚性連続的単語処理能が
口頭命令の成績に影響があることを
裏付ける根拠がもう一つあります。


文献(2014)にて

SLTAの口頭命令課題

物品名を「これ」に置き換えた口頭命令

同じ失語症者で比較しました。

⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️
検査に参加した失語症者は
SLTAの「単語の理解」を
全問正答している方々です。
⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️⚠️


「これ」に置き換えた口頭命令とは、
具体的には

「ハンカチを持ってください」
⬇️
「これを持ってください」
という感じです。

わかりにくいと思うので、
動画で示します。


結果をグラフに示したものがこちら



普通の口頭命令では、正答数が3.4個です。

しかし、
物品名を「これ」に置き換えた途端に
成績が8.9個まで向上
しています。

このことから、
失語症者は、単語を連続で速く
処理する力が低い
と考えられます。

アプリん
アプリん

物品を「これ」に変えるだけで
正答数がこんなに変わるのか!

やっぱり失語症者は、
「連続で」「速く」
単語を処理するのが
苦手なんだろうね

ここまでの【まとめ】

✔︎ 失語者は聴覚性連続的単語処理能が
明らかに低下している

✔︎ 口頭命令の正答数と聴覚性連続的単語処理能の成績は相関している。
この能力を上げれば、口頭命令の正答率が向上する可能性がある。

文理解に必要な能力は
他にあるのか

単語の理解能力と
集中力は必要

大槻(2006)は、文理解には、次の能力が必要だと述べている。

① 文を最初から最後まで聴く集中力の持続
② 聴いた文の把持
③ 個々の単語の理解
④ 文法的な理解

文献(2014)では、
聴覚性連続的単語処理能を検証する際に、

注意能力の評価BAADで点数の低下がなく
SLTAの単語の理解で全問正答の者
を対象
としています。

このことから、


集中力と③個々の単語の理解能力
文理解では必須の能力である可能性が高いと私は考えます。

文理解を目指した「聴覚性把持力訓練」は慎重に

文理解能力の向上を目指したときに、
聴覚性把持力(APS)の訓練は
よく行うことでしょう。

しかし、聴覚性把持力課題は
注意が必要です。


結論を先に言うと、
聴覚性把持力課題は
絵が見える状態で行いましょう。



「closed ARS」と言われる
目隠しをした状態で、
ポインティングしてもらう方法では、
口頭命令の成績向上に
効果がないからです。

その理由は、
口頭命令とclosed ARSの相関がないから。




一方で「opened ARS」と言われる
絵カードが見える状態で行う方法は
口頭命令に効果がある
かもしれません。

理由は、
opened ARSと口頭命令の正答数で
相関があるから。




つまり、
文理解の評価及び訓練を行うのであれば、
opened ARSの方が良いのではないかと思います。

ちなみに、文献では、
opened ARSと聴覚性連続的単語処理能は、
同じ能力を用いている可能性
がある
と書かれていました。

アプリん
アプリん

目隠しの把持力課題、
散々やってたな…

口頭命令の成績向上を目指すなら、助詞の理解は後回し

文献(2014)では、
口頭命令の成績が
助詞の有無で変化するかを調べています。


その結果、

助詞あり:「〇〇△△触ってください」
正答出来る者が多かったのに対し、

助詞なし:「〇〇△△触ってください」
正答者は少なかった

誤答の仕方としては、
「〇〇と△△を触る」が最も多かった。

しかし、その他の問題については、
助詞の有無によって正答率は
あまり変わらなかった。


つまり、
口頭命令では
道具の使用の「で」の問いは
難易度が高い。

しかし、
それ以外の問いでは助詞ストラテジーは、
あまり関与しないのではないかと考えられる。

ということは、
聴覚性連続的単語処理能を優先的に
訓練した方が良いのではないか
と思います。

リハくん
リハくん

助詞ストラテジーは、
後回しにして
処理速度が先だね

ここまでの【まとめ】

✔︎ 文理解に必要な能力は、集中力と
一般的な単語の聴理解能力だ。

✔︎ 聴覚性把持力課題は、
opened ARSのみ
口頭命令の成績向上に効果的かも。

✔︎ 助詞ストラテジーは、
口頭命令の成績にほぼ必要ない。



聴覚性連続的単語処理能を鍛える訓練
「連続的聴理解課題」

ここまで、口頭命令の理解には
聴覚性連続的単語処理能が重要
(opened ARSも効果があるかも)
と説明してきました。

ここからは、
聴覚性連続的単語処理能を鍛える
訓練法を提案
していこうと思います。

刺激間隔を少しずつ短くして、
1秒での連続処理をめざす

目指す姿は、
1秒間隔で提示される音声単語を
誤りなく、連続で
ポインティングできる
こと

しかし、いきなり1秒間隔で、
連続の処理をするのは難しい。


そこで、
私は
最初は3秒間隔で、
徐々に1秒に近づけていく方法を
考えました。



これは、呼称の速度向上をめざす
「RISP法」にも取り入れられている
訓練方法です。

具体的な連続的聴理解課題について紹介

ここから、
アナログ教材とデジタル教材に分けて、
訓練方法を紹介していきます。

アナログ教材は無料アプリが必須で、記録はしにくい

まずはイメージしやすいように
動画をご覧ください。

このように、
絵カードを並べて、
一定間隔で刺激を与えていきます。



最初は3秒から開始し、
2.5秒
2.0秒
1.5秒
1.0秒と
短くしていきます。


アナログ教材では、
STが音声提示をしなければなりません。
一定間隔での音声提示が難しいです。

そこで、使用するのが下記のアプリ

音で筋トレカウント -筋肉トレーニングやリハビリのカウンター

音で筋トレカウント

メトロノームのように0.5秒間隔で
音を鳴らせるこのアプリ。



音が鳴ったタイミングで刺激を提示すれば、
連続的聴理解訓練が可能
です。


唯一の欠点は
正答率の記録ができないこと


STは音声を言うことに必死になってしまうので、
正答誤答の記録がしにくいです。


私は、10問連続正答で次のレベルアップを行っているので
この訓練において記録は必要だと考えています。

アプリん
アプリん

アナログ教材は、
準備と実施が大変そう

ポワポ教材を使えば、STに分析の余裕が生まれる。

次は、パワポを使ったデジタル教材の紹介です。
イメージしやすいように、動画をご覧ください。

3秒間隔での連続的聴理解訓練
2秒間隔での連続的聴理解訓練

パワポ教材を使えば、
機械が音声提示を行ってくれます。

そのため、正答誤答の記録が容易です。
誤り方の分析もしやすくなるでしょう。


また、機械が時間を測ってくれるので、
一定間隔での刺激提示も容易です。


何より、
ゲームみたいで楽しそうじゃないですか?

アプリん
アプリん

パワポ教材の方が
使いやすそうだね

アナログ教材とパワポ教材の比較



提示
間隔
音声
提示
絵の
配置
アナ
ログ


アプリST
困難
デジ
タル


自動自動自動
入替

アナログ教材とパワポ教材を
比較をしてみました。


アナログの良さは、
無料でできること!

無料アプリで
一定間隔の刺激も可能。

訓練効果も期待できると思います。


ただし、欠点は2つ

①記録がしにくいこと。
音声提示が大変で、
エラーの分析ができません。


②絵カードの入れ替えが難しい
一定間隔で音声提示を行うので、
絵カードを毎回入れ替えるのは無理です。


そのため、患者様によっては
「さっきこれを言ったから、
次はそれかな?」
と勘で答えてしまう可能性があります。



パワポ教材は、
毎回絵カードがシャッフルされます。
そのため、純粋に、
聴覚性連続的単語処理能を鍛える
ことが
できます。

また、記録もしやすいので、
エラー分析が容易です。

リハくん
リハくん

自動シャッフル機能は
凄いね!!

連続的聴理解訓練に効果はあるのか

最後に、
パワポ教材を購入したSTが
実際に連続的聴理解訓練を行なった
事例を紹介します。


対象者は、後期高齢者で
短文レベルの聴覚的理解は可能だが、
口頭命令にて低下がある方でした。

会話のやりとりは、聞き返しがあり
音声だけでは不十分さが見られました。


実際にパワポ教材を取り入れてみると…
最初は3.0秒で3問しか
連続正答できませんでした。


しかし、1ヶ月後には
1.5秒で10問連続正答を達成!!



会話では、
聞き返しなくやり取りができるように。



同時期のSLTAの再評価では、
口頭命令が全問正答できていました。


これは回復期の事例なので、
自然回復かもしれません。

注意機能訓練も並行して行ったそうなので
その影響もあるでしょう。


ただ、
失語症者が口頭命令で全問正答する姿を
私は初めて見ました。



「たまたまかもしれない」
「自然回復の可能性も十分あり得る」
と思いつつも、
鳥肌が立ったのを鮮明に覚えています。


文理解の訓練で悩んでいる方は、
一度試してくださればと思います。

おわりに

ここまで読んでくださり、
ありがとうございました。


連続的聴理解課題は、
こちらのnoteにて
980円で販売しております。

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